(2008. 5.12 更新)
教員の質の確保に向けた提言 |
2006年8月22日
文部科学大臣 小坂 憲次 殿
社団法人日本化学会会長 藤嶋 昭
A.勤務時間と勤務内容 | |
(1) | 教員の平均出勤時刻は8時、平均退勤時刻は18時16分で、昼休みも児童・生徒と無関係に休憩を取れない実情を考えると、実働10時間と勤務時間が長い。 |
(2) | 80%以上の教員が週平均3.6日も仕事を家に持ち帰っている。仕事を家に持ち帰らない教員の平均の退勤時刻はほぼ19時で、全体の平均より1時間近く遅い。 |
(3) | 授業以外に行う職務は、教材研究、テストの採点、ノート点検、校務分掌、部活動の指導等多岐にわたり、かつ仕事量が多い。 |
B.休日出勤と勤務内容 | |
(1) | 日曜・祝日も月平均0.9日出勤していた。また、土曜日が休日になっている学校では8割の教員が土曜日に月平均1.8日は出勤していた。 |
(2) | 休日の土曜に出勤するのは、保護者会、授業参観、PTA・町内行事などのため。中学校では75%の教員が部活動の指導のためであった。 |
(3) | 休日に勤務をしても41%が代休を取れていなかった。 |
C. 長期休業中の出勤 | |
(1) | 夏休み・冬休み等の学校の休業期間中は、出勤・退勤の時刻はほぼ定時で残業はほとんどなかった。しかし土曜・日曜・祝日以外に取った休暇は3〜6日であった。 |
(2) | 長期休業中に出勤したときの仕事内容も多岐にわたっているが、2割を越える教員が共通して携わる仕事は小学校における日直と水泳指導くらいで、多くは個人に任されていると見られる。 |
ア)必要な教員数を確保できる制度を確立し、理科の授業の質を高める環境を整える
多忙な教員が自己研鑽のための時間を生み出すとしたら、まず仕事の負担を減らすことから始める必要があります。授業以外の教員の仕事は、テストの採点、ノート点検、生徒指導、保護者との面談等、児童・生徒に直接関わることが多いので、学級の児童・生徒数の少人数化を推進して事務作業を軽減することが望まれます。
現在進んでいる少子化傾向は、学級数の減少を来たし、教員数の削減へとつながります。しかし教員数が減少すると、校外での研修会等への参加が他の教員への負担となり、研修会等に参加しにくい環境になるばかりか、教科指導の中核となるような経験と専門的知識を持った教員がいなくなり、学校現場の教育力の低下が憂慮されます。このような傾向は既に小学校で現れ始めていて、理科の実験が苦手な教員が多いとの指摘から、2007年度より公立小学校へ理科実験支援教員(サイエンス・コラボレート・ティーチャー)の導入が計画されています。ちなみに、東京都における平成16年度の専科教員数は、音楽1,327人、図画工作1,305人、家庭374人に対し、理科は僅かに138人です。学校現場での教育力の低下を防ぐためにも、教員数の少ない学校への加配等による積極的配置が望まれます。
一方教員の仕事量が多いと、それだけ直接児童・生徒と接する時間が少なくなります。教員の研鑽時間を確保し、その上さらにきめ細かな教育を行っていくためには、複数担任制(TT、TA)による機能的な仕事の分担も有効な方策と考えられます。特に、中学校では部活動の指導が大きな負担になっているのが現状です。部活動の指導は土曜・日曜・祝日にも行われ、休日出勤の主要な理由でもあります。教員の休日出勤を減らすには、休日における部活動の指導を校外者に委嘱する等の授業外指導者(休日の部活動指導等)制度の導入も検討する必要があります。
イ)長期休業期間を研修期間として位置づけ、教員の自己研鑽を勧める
教員の資質の向上には、教育委員会等が主催する研修だけでなく、自己研修による研鑽も重要です。そこで、夏休みや冬休みのいわゆる長期休業期間における教員の仕事の内容が個人的な色彩の濃い現状であることに鑑み、学校の長期休業期間を自己研修をも含めた研修期間として位置づけることにより、教員に広く自発能動の機会を与えることを提案します。専門的な知識の獲得のための活動を可能にするためには、研修会のみならず、公開講座や研究会への参加を勧め、大学等での研究もできるように、教員を送り出す制度と受け入れる制度とを、合わせて設けることが望まれます。さらに専門的な知識の獲得のための研修にとどまらず、広く地域理解・国際理解等のための活動も重要であり、現地での実情を直接体験することも、教員の資質・能力の向上につながるはずです。このようにして長期休業期間を有効に利用することが可能であり、また教員の積極性を喚起する上で必要であると主張します。
ウ)現職教員の大学院等への派遣を推進し、リーダー教員を養成する
また、短期の研修会等での再教育だけにとどまらず、さらに抜本的な現職教員の質の向上をめざすために、大学院設置基準の14条特例を活用した大学院あるいは開設が計画されている教職大学院への現職教員派遣のための予算措置を積極的に行うことを要望します。そして大学院等を修了した教員の勤務校を、近隣地域の拠点校に指定して、そこに地域リーダー教員を配置するシステムを構築すれば、教育力の低下を防ぐとともに、教員に自己研鑽の目標と活躍の場とを与えることになります。またこのリーダー教員を研修会等での指導担当者として活用することによって、研修会等のきめ細かな運営が可能となることでしょう。人材の育成無くして将来の発展が期待できないことは、教育界でも例外ではあり得ません。今こそ長期の展望に立った人材育成のシステムを確立するよう切望します。
以上
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